「…わりぃ。いきなりこんなこと言って」


「えっ…」


「麻木のことを困らせたいわけじゃないんだ。……今のおまえ、すげぇ泣きそうな顔してる」


「…っ!」


「その顔は伸一じゃなくて、俺のせいなんだろ?」




今にも泣きそうな顔でそう言われて、少しでも泣きたくなってしまった自分が情けない。



それに気付かせてしまったことが申し訳なかった。



何て言おうか迷っていると、ポンと頭に手を乗せられた。




「真藤君…?」


「……返事さ、今は要らない。どうせ返ってくる言葉は分かってるし」


「……」


「…だけど、麻木の気持ちが落ち着いたら聞かせてくれ。
あいつと俺。両方に対して平等に答えを出せるようになったら」


「…うん。分かった」




真藤君の声が震えているように聞こえて。


頷いてそう言うことしか出来なかった。



……でもあたし、まだ言えてない。




「……とう」


「ん?」


「…ありがとう。あたしのこと好きになってくれて」




真藤君があたしにくれた温かい気持ち。


今はこれを受け取る場所がないけれど、ちゃんと手の中に収めたよ。



捨てることなど出来ない大切なものだから……。




真藤君はつらそうにしながらも笑ってくれて、あたしも申し訳なく笑顔を返す。



……一歩前に進むときが、来ている気配がした。



.