あたしは泣きそうになっている自分にムチを打って、最後の意地で笑顔を作った。
「は、早く小春ちゃんのもとに行ってあげて!待ってるんでしょう…?」
「あぁ、うん…」
「佐藤君、あたしのことはもういいよ。ノートも届けてもらったことだしね。……ありがとう!」
途中、なかなか伸一の顔を見ることが出来なかったけれど、『ありがとう』と言うときだけはなんとか伸一と向かい合うことが出来た。
この『ありがとう』の本当の意味を、伸一は分かってくれたかな……?
窺うように笑顔で伸一の表情を見ると、あたしと同じように笑い返してくれた。
「……どういたしまして!
じゃあ俺……先に行くわ」
だけど伸一が笑顔を見せてくれたのはほんの一瞬で、すぐに背中を向けられてしまう。
――それが、あたしたちの時間の終わりを静かに告げていた。
「じゃあ、二人ともまた明日!」
伸一は一度だけあたしと真藤君の姿を見ると、すぐに扉に向かって歩いて行ってしまった。
その背中を見つめることしか出来ないあたしは、ただ涙を堪える。
そして伸一は部屋を出てから扉の閉まると、足音を立てて走っていった。
その音が廊下で反響してあたしの耳にまで届くことが、ただ虚しく感じられた。



