それにあたしが『優しい』なんて勘違いだよ。
歌を歌うときに泣きながら幸せを願っているあたしなんかが、本当に優しいわけないじゃない。
本当はずるいの。
弱くて卑怯な最低の人間なの。
伸一と二人で過ごす時間に執着して、幸せを願うフリをしながら、ただ自分のためにこの時間を楽しんでる。
あたしは、優しくない…。
あたしが拳を握りしめて微かに震えているなんて知らない伸一は、さらに酷な言葉を付け加えていく。
「麻木は優しいからさ。
きっと、麻木の好きな人は幸せだな!
こんな風に想ってもらえるんだからな」
「……!」
伸一の言葉が胸に突き刺さって顔を上げたら。
……目の前の眩しかった笑顔が、一気に黒い絵の具で塗りつぶされたような気がした。
同時に、もう何に対してなのかも分からない涙が込み上げてくる。
……言わないで。
“麻木の好きな人は幸せ”だなんて、そんなこと言わないでよ。
本当に、伸一はそんな風に思ってるの?
じゃあ、教えてよ……。
伸一はあたしが“好きです”って気持ちを伝えたら、“幸せ”って思ってくれるの?
伸一、教えてよ…。
ずっと入れてはいけないと、動かしてはいけないと心に決めていたのに。
心のスイッチが、切り替わる――。



