「麻木は歌うの全然下手じゃねぇって!
それに俺が気に入ったのは“麻木の曲と歌”なんだから、麻木はありのままでいいんだ。
俺は、ありのままが聞きたいから」
「でも、本当に下手だし…」
渋っているあたしに伸一は必死な様子で語りかけてくるけど、やっぱりそう簡単には了承出来ない。
しかも一番歌いたくない理由が“歌詞”ということもあって、余計に歌うことに抵抗があった。
あんな実らない想いを綴った詩を伸一の前で歌うだなんて……なんだか惨めな気がする。
――だけど。
「…いいよ。歌も歌う」
「おっ、さすが麻木だな!サンキュー!」
――あの歌を歌えば、伸一があたしの気持ちを少しでも感じてくれるかもしれない。
そんな浅はかな考えで歌うことを決めてしまうあたしが……一番惨めだ。
「…じゃあ、弾くね」
規則的に並んだ白と黒の鍵盤。
それらに指を滑らせれば、自然と体が動く。
……伸一を想う気持ちが、
激しく切ない刹那のメロディーと
曖昧に閉じ込めた言葉に変わって
……強く、壮大に響いていく。



