「弾いて欲しい曲って何?
あたしが弾ける曲だったら、いくらでも弾くよ」


「おっ!じゃあ頼むぜ!
ぜってぇ麻木が弾ける曲だから」


「…?」




あたしが快く引き受けると、伸一は小さくガッツポーズをして喜んだ。



そこまで喜ぶほど弾いて欲しい曲って、一体何なんだろう…。



伸一からの初めてのリクエストということもあって、言葉を待つ間はなんだか緊張してドキドキしていた。




「弾いて欲しい曲っていうのはあれだよ。俺が初めてここに来たときに、麻木が弾いてた曲。
俺、あれがもう一回聞きたい!」


「…えっ、あの曲を…?」




弾んだ笑顔を見せる伸一の口から飛び出してきたのは、あまりも意外なリクエストだった。



正直、驚いているというよりも内心ではかなり焦っている。



……よりによって、あたしが作曲した曲だなんて。



こんなことなら、リクエストを引く受けるなんて言わなきゃ良かったかも。


……なんて思ったけれど。




「あの曲、あれ以来全然弾いてないだろ?だから、すっげー聞きたい気分なんだ。
俺、あの瞬間にあの曲のこと気に入ったからさ!」




……あの曲のことをそんな風に言われたら、断ろうなんて甘い考えはすぐに引っ込んだ。