「なぁなぁ。」


高い位置に取り付けられた鉄格子の窓から男の声が聴こえてきた。

椅子を使えば届かないことも無いのだが、鉄格子の間から見えるはずの景色は精密に作られた膜(マク)によって霞(カス)んでしか見えない。


ここグリーンディアで開発された防御膜だ。

科学に特化したこの街ではもっと良質な声も防げる品もあるのだが、何せ値が張る。

裕福な家でもこれが精一杯だった。



この家の一人息子ネイザンは声に反応することもなく、机に向かいペンを走らせた。


真っ白の清潔なシャツに暖かなウールのベスト。

しみ一つない肌と艶(ツヤ)のある柔らかな黒髪は絵に描(カ)いたようなお坊ちゃんだ。