「ずーっといたよ?お姫さんが入ってくるときにちょこっと横からお邪魔して」

壁の近くにある花瓶が置かれている棚の近くを指さしながら答える彼女。
よく見てみると、棚の横に小さなスペースがあり、身を潜めることは出来そうだ。

「初めまして、お姫さん。私が今日からあんたのメイドになる如月 静音-キサラギ シズネ-だよ。よろしくね」

優しく微笑みながら私の方に向かってくる彼女に、背筋がぶるっとし、冷や汗が流れた。
彼女、如月さんの雰囲気・・・怖い。
そんな私の気持ちを察したのか一瞬足を止め真剣な表情に変わるが、すぐにフッとまた微笑み足を進めた。

「お姫さんって、察しがいいというのか、敏感というか・・・、その怯えは無意識?それとも自分でも気づいてるの?」

ふふふと笑いながら私の目の前まで来て足を止めた。

「今自分が恐怖を感じていることは分かっています。でも、それが何故なのかは・・・わからない」

頭がひやーっとする感覚に陥っている私は、きっと顔面蒼白に近い状態になっているのではないだろうか。しかし、そんなことに構っている余裕すら今の私にはない。

「あんた、おもしろいね。みーんな、あたしの笑顔には騙されるんだけどなー。優しそうって」

クスクス笑いながら私の頬をひと撫でする彼女。その仕草ですら、なんだか異様な雰囲気を醸し出している。

「ねー、本当に犬好きなら付き人どんな奴でもいいの?人を平気な顔で殺すようなやつでも?」

微笑を絶やさず話続ける彼女は腰を屈め、ソラの肘置きに手をかけて私と視線を合わせた。

「・・・て、訂正します、」

おずおずと言葉を発する私はこの言葉を継げるだけで若干精一杯な状態。こめかみをツーっと汗が流れるのを感じる。
きっと彼女が言っている人を殺すという言葉・・・、例えではないんじゃないだろうか。そんな感じがする。