「麗羅、私は桜を失って気付いたことがある。
家族という存在の大切さだ。

自分で言うのもなんだが、私は若くして会社を立ち上げここまでのし上がってきた。もちろん平坦な道のりなんかではなかったし、人間という醜い者の汚い部分をたくさん見てきた。多くの人間に裏切られ、騙され…。それでも家族という支えがあったから続けることが出来たんだ。
桜はね、私にとって希望だったんだよ。たった1人のかわいい娘。
目に入れても痛くないほど可愛がってきた愛娘を、どこの馬の骨とも分からん若造に奪われる気持ちがわかるかい?それは、それは、
踏みつぶしてすりこ木ですり潰してやろうかと思うほどの気持ちだったよ」

「事実、会長は海外の拷問器具を買収しようとされていました」

う、うん。お父さん、逃げて正解だったよ。この人、おっかないよ。
突然始まった昔話で近江繁という者が、どれほどの危険人物かってことが明らかになろうとしていた。

「そんな怒りに任せて私は、親として…いや、人間として言ってはいけない一言を口にしてしまった。」

中絶しろとの発言のことであろう。近江は顔を歪ませ言葉を続けた。

「放ってしまった言葉を回収することは出来ない。私は何十年も生きてきてわかっていたはずだった。言葉は凶器であるということ。言葉は口にしたが最後、なかったことにはできないということを。」