「あ~あ、やっちまった…」


この暑い夏場に、ネクタイを少し緩めたりしただけの黒いスーツを着こなして

ハア、と盛大にため息をつきながら少年は
人の波に逆らうように足取り重たく歩いていた。



見た目高校生ぐらいの少年の名は、斎藤正樹(サイトウ マサキ)

黒髪黒目、顔の造形は可もなく不可もなく
街中にいても別に目立つこともない、いたって普通の少年だ

そんな正樹は
ポケットに入れていた少年が持つには些か違和感のある、薄ピンクの色をした携帯を出した。

ピ、という音を鳴らしながらまとう雰囲気とは逆に
正樹は軽快なリズムでボタンを押していく


プルルル、という機械音の後に
ガチャリという音が聞こえた。


《正樹か、依頼の方はどうなった?》


電話に出たのは、少し声の低い女の人だった
正樹は少しためらいながら

「すんません、失敗しました」


そう言った瞬間、電話先でガッシャアアアッと何かを破壊した音が聞こえた。