メロンパンにさようなら

「いつまでもこんなところに居ないで、陸上に戻ってよ」



「……じゃねぇし」

俯いて小さく呟いた彼の口元は、震えているように見えた。


「え?」

彼の言葉が聞き取れなかったのか、彼女が聞き返すと、

「こんなところなんかじゃねぇ。って言ったんだよ」


真っ直ぐ彼女を見つめて言った彼の瞳は、今までみたことのないくらい強くて、怖ささえ感じてしまう。


「何、言って……」

彼女がオロオロと動揺しているのが、見ているこちらにも分かった。


「部活の邪魔だ。出て行ってくんねぇ」

彼の言葉は冷たくて、感情なんて一つも入ってないように思える。

言葉だけじゃない。態度もいつも見る高見翔とは全然違った。


そんな冷たい言葉を受けても、その場から動こうとしない彼女を見た彼は、


「あんたが出て行かないんなら、俺が出て行くわ」

そう呟くと、廊下へと歩いていった彼の背中を、私は、追いかけることも、呼び止めることも出来なかった。

今は1人にしてほしい

そう背中が言っているみたいで、動けなかったんだ。

「待ってっ!」

彼女がそう叫んでも、彼は立ち止まることも振り返ることもしなかった。