ミツは荷物を抱えたまま、
少し開いた重いドアをすり抜けてスタジオへ入った。
薄暗いスタジオの隅から、眩しい照明の当たるセットを見る。
目が慣れると、ド派手なピンクや赤のセットに囲まれて、
歌っているのが見えた。
洋二だった。
少し見ないあいだに、また痩せたように見えた。
髪は切ってないようで、無造作にわけたヘアスタイルがダサかった。
外すのが面倒なだけだと気づいた銀色のドッグタグが、
今も洋二の胸元で揺れる。
フラワー・オブ・ライフでは一度も歌うことのなかったあの曲。
アコースティックギターに持ち替えて、洋二は歌う。
高音がかすれる歌声。
切なく、心を絞るような声。
見間違えるはずがない。
そこには洋二の姿があった。
たった一人で、歌う洋二の姿があった。
出来レースだと、グラビアアイドルとお笑い芸人にあれこれ言われて
ジャッジされるような舞台に、洋二の姿があった。
ミツは荷物を片膝をあげて落ちないように固定し、
すすけて黒くなった軍手で目頭をぬぐった。
さらさらと痛みのない低温の涙が頬を伝った。
洟も垂れたのでそのまま軍手でぬぐった。
洟もさらさらしているように感じる。
無精ひげが軍手をちくちく刺す。
ミツは荷物を床に置いて、軍手を外し、涙をぬぐった。
洋二の姿がぼやけて見えなくなって、歌声だけがミツを震わせた。
ミツはスタジオの冷たい壁にもたれた。
洋二に見つかったら絶対に笑われてしまう。
それとも、ここで歌っていることを見つかって照れるだろうか。
また恥ずかしそうに目をそらすだろうか。
ミツは親指と人差し指で四角い枠を作って、ステージの洋二を囲んでみた。遠く離れた洋二がその中に納まった。
ルーズショットと呼ぶには、少し遠すぎる気がした。
「おい、中野。何さぼってんだ。」
いつのまにかスタジオでミツを見つけた先輩ADが、
低く苛立った声をミツに向けた。
ミツは慌ててファインダー代わりの両手を崩す。
「はい。すんませんっす。」
「ったく、さぼってんじゃねーぞぉ。」
ミツは袖でゴシゴシと顔を拭き、軍手をはめなおした。
湿った感触が甲をさらった。荷物を抱えてスタジオを出る。
少し開いた重いドアをすり抜けてスタジオへ入った。
薄暗いスタジオの隅から、眩しい照明の当たるセットを見る。
目が慣れると、ド派手なピンクや赤のセットに囲まれて、
歌っているのが見えた。
洋二だった。
少し見ないあいだに、また痩せたように見えた。
髪は切ってないようで、無造作にわけたヘアスタイルがダサかった。
外すのが面倒なだけだと気づいた銀色のドッグタグが、
今も洋二の胸元で揺れる。
フラワー・オブ・ライフでは一度も歌うことのなかったあの曲。
アコースティックギターに持ち替えて、洋二は歌う。
高音がかすれる歌声。
切なく、心を絞るような声。
見間違えるはずがない。
そこには洋二の姿があった。
たった一人で、歌う洋二の姿があった。
出来レースだと、グラビアアイドルとお笑い芸人にあれこれ言われて
ジャッジされるような舞台に、洋二の姿があった。
ミツは荷物を片膝をあげて落ちないように固定し、
すすけて黒くなった軍手で目頭をぬぐった。
さらさらと痛みのない低温の涙が頬を伝った。
洟も垂れたのでそのまま軍手でぬぐった。
洟もさらさらしているように感じる。
無精ひげが軍手をちくちく刺す。
ミツは荷物を床に置いて、軍手を外し、涙をぬぐった。
洋二の姿がぼやけて見えなくなって、歌声だけがミツを震わせた。
ミツはスタジオの冷たい壁にもたれた。
洋二に見つかったら絶対に笑われてしまう。
それとも、ここで歌っていることを見つかって照れるだろうか。
また恥ずかしそうに目をそらすだろうか。
ミツは親指と人差し指で四角い枠を作って、ステージの洋二を囲んでみた。遠く離れた洋二がその中に納まった。
ルーズショットと呼ぶには、少し遠すぎる気がした。
「おい、中野。何さぼってんだ。」
いつのまにかスタジオでミツを見つけた先輩ADが、
低く苛立った声をミツに向けた。
ミツは慌ててファインダー代わりの両手を崩す。
「はい。すんませんっす。」
「ったく、さぼってんじゃねーぞぉ。」
ミツは袖でゴシゴシと顔を拭き、軍手をはめなおした。
湿った感触が甲をさらった。荷物を抱えてスタジオを出る。

