素人っぽい俳優が深刻そうな顔で演技をしている。

 映像もかなり陳腐だ。

 どうやら再現ドラマらしい。


 なんとなく気になって新聞のテレビ欄をチェックする。




 {世界仰天物語~脳死した妻の記憶を持つ女~}




『あたし、心臓を移植しているの』
『まさか、綾乃の心臓……』
 ドラマは続く。


「へえ~、ミトコンドリアに記憶が宿っているのか」

 回らない頭で達之は呟いた。

 そう言えば昔、こういった内容のドラマが流行った時期があったな。

 ヒトの細胞中で、核DNAとは別のミトコンドリアDNAを保有しているミトコンドリアはヒトとは別の生物から由来しているという細胞内共生説を基に、SFとかホラーとかが作られて、パラサイトがどうのとかなんとか言う内容だった気がする。

 臓器移植をして他人の記憶を持つとか、味覚や性格が変わると言うのも一時期流行ってやり古した内容だ。

 大方これはその二つを単純にくっつけた、深夜の穴埋め的ドラマなのだろう。



『あたし、あなたを愛しているわ』



 抱き合う二人。やはり中身の薄い陳腐な内容だ。


「でも、こんなに色っぽかったら反則だよな」
 演じる女性は、色白もち肌の、艶めかしい体つきで男に迫る。

 結局掻い摘んで話せば、妻に先立たれ男が数年後に愛した妻と同じ記憶を持つ若くて美しい女と出会い、迫られ再婚する。

 それだけだった。が、なんとなく考えてしまう。




(オレだったらどうするだろう)





 美絵子が死んで悲しみに明け暮れている真っ只中に、美絵子の記憶を持った色気ある、達之好みの美しい女が迫ってくる。



 そしたらオレは、どうするのだろうか。




「これは難問だ」

 う~むと唸りながら、ぐいとビールを飲み干した。