大海の一滴


 回らない頭で、ムッとする。

 そうだ! そうに違いない!!!

 五十嵐が来なければ歓迎会も行われなかった。
歓迎会が行われなければ、飲みすぎて美絵子と喧嘩することも無かった。
 そうしたら、美絵子だって家出しなかったのだ。

 やっぱりあいつは疫病神に違いない!!


 二本目の発泡酒もすぐに空となり、スコッチウィスキーの箱に手を延ばす。
 小さなグラスに指一本分だけ注ぎ、それをオンザロックで味わう。

(飲み終わったら、このグラスだけは洗っておかないと)
 ウィスキーを飲んだと知ったら、美絵子はまた怒るに違いない。


 そう言えば、随分昔、結婚前の同棲中にも美絵子が家出をしたことがあったっけ。
 あれも原因は酒癖の悪さだった。
 と言っても、酔って暴力を奮うわけではない。

 ただ、ただちょっとだけ楽しくなり過ぎて、羽目を外して、記憶も失くしてしまうだけなのだ。ついでに言うと、身の回りの品々も少々失くしてしまったりする。
 例えばクレジットカード入りの財布、手に持っていたはずの鞄とか。
 それから、気が付いたら知らない駅のベンチに横たわっていたことも、数回あったような。

 ……でも、日本のサラリーマンには良くあることだ。
 ノミュニケーションと言う言葉が浸透しているくらいだ。
 これは昔から受け継がれてきた由緒正しき日本文化なのである。
 キャバクラや風俗に行くわけでもないし、許容範囲だ。と、昔は思っていた。
 ……いや、実は今でも少し思っている。

 ところが、酔った達之の尻拭いをさせられていた美絵子は、そうは思わなかった。
 それで、あいつはキレて家を飛び出したのだ。