「驚きました。私は、当時、そのマンションに引っ越したばかりで、誰にも住所を教えてはいなかったのです」
「!?」
「急いでカーテンを捲り窓の外を確かめようとして、更に驚きました」
「その窓に、暗い雨の中、当時のままの、十一歳のさちちゃんが映し出されていたのです」
「私はすぐに玄関を飛び出し彼女のもとへ向かいました。外に出てみるとそこにさちちゃんの姿はなく、放心状態の美絵子がずぶ濡れで立ちつくしていました。それから私は美絵子を抱えるようにしてマンションへ戻り、お風呂を沸かし、服を着替えさせ、温かいものを飲ませました」
「美絵子はしばらくして、今日は何日かと尋ねて来ました。私がカレンダーを見せながら日付を教えると、酷く驚いた顔をして、自分の携帯を操作し、何かを確認しているようでした」
(……オレのメールかもな)
当時、あせりすぎて、何十件も謝りのメールと着信を入れていたことを思い出す。



