慌てて、テーブルの下に隠れた脛をつねる。
(危ない、危ない)
前もこんな風に考えて、ドキッとしたんだった。冷静になれ。
(でも、なんだろう……この奇妙な感じは)
いや、と、小さく首を振り、テーブルの景色を眺める。
やはり炭酸は苦手なのだろう。
彼女のクリームソーダはまだ半分以上も残っており、溶けた氷の分だけ容積が増していた。
秋野月子は、達之の焦りには全く気が付かず、話を進める。
「夢の中の私は、鏡の前に立ち、そこに映った顔が自分のものではないことに酷く驚きます。……そこで、いつも目が覚めます。目覚めた途端、私は鏡の中の女の子の顔だけ、どうしても思い出せなくなっている。それ以外は夢と思えないくらいはっきり覚えているのに」
彼女が目を閉じる。瞼の内側で眼球が細かく動いているのが見て取れる。
つられるように達之も、拳を鼻先に当てて目をつぶる。
(……やっぱり、何か引っかかるんだよな)
さっきの……小学四年生の、ちょっときつめの女の子。
それから小学五年生の女の子。
なんだろう。
何かが……思い出せそうで、思い出せない。
それは例えば、母から幼少期の自分の話を聞かされて『ああ、そう言えばそんなことがあった気がするな』とぼやけた記憶の中に妙な懐かしさを覚えるような、そんな感覚に似ていた。
もう一度、気になった言葉を頭の中で復唱する。
父、二人の女の子、クローバー、海、貝殻……。
(う~~ん)
「ごめんなさい。私にも何が言いたいのか、よく整理が出来ていないんです。とにかく、思い出したことから話します」



