それで良いとも思えた。
親父がどんな経緯で臓器を運ぶ仕事に就いていたのか察する。
おそらく、進んで請け負ったわけではないだろう。
結局サラリーマンでも公務員でも上司には逆らえないのだ。
二十歳そこそこの達之には分からなかったことも、今の達之には理解出来る。白でも黒でもなく、時にはグレーが必要なことも心得ている。
それに、もし美絵子が秋野月子と同じ病院に入院していたのなら、そして親父の持ってきた臓器で助かったのなら、法律云々度外視で、愛する人の命を救ってくれたのだから感謝感激極まりない。
つまり、父は尊敬に値する人物だったのだ。それでいい。
「藤川さん、臓器移植を受けた人の中には、稀に記憶転移と呼ばれる現象が起こり、食べ物の好みが変わったり、初めて来る場所なのに妙に懐かしさを覚えたり、全く別人のような性格になったりする人がいるそうです。その原因には、臓器内の神経組織が記憶を蓄えているためとか、生物の細胞自体に記憶を蓄える能力があるためと言った肯定的な解釈と、麻酔や免疫抑制剤の副作用であるとか、本人の思い込みやドナーへの強い感謝の念による心理的なものであると言った否定的な解釈等諸説言われていますが、科学的には未だ解明されていません」
(記憶転移)
確か、つい最近、深夜テレビの、世界の仰天何ちゃらとか言う番組で、そんな再現ドラマをやっていたな。



