「結局、あの病院の所在地や、その藤川という男性について、それ以上教えては貰えませんでした。けれど私は当時、青い作業着の男性の名前を知ったことで、真実に大きく前進した気になっていたのです。あとになって、調べてみると児童福祉関係の職業というのは営利、非営利団体など含めれば星の数ほどあり、その中に藤川さんという苗字の男性は数え切れないほどいることが分かりました。病院の場所が特定出来ない限り、藤川という男性を見つけ出すことはまず不可能で、私は結局、その弁護士に上手く言いくるめられたのだと気が付きました」
「……」
「私は、そこで調査を諦めざる終えませんでした。当時の私には、それ以上、どうすることもできなかったのです」
一息ついた後、彼女の口調が少し変わる。
「私は、不慮の事故に遭った子供の臓器を貰い、生きている。それなら、その受け継いだ命を大切にして、病院にも父親にも、もちろん母にも感謝して生きて行こう。そう決めたんです」
秋野月子は微笑み、口を結んだ。
知らず知らずのうちに溜息を付いていた。
それが父へ向けたものなのか、秋野月子の苦労に対するものなのか、はたまたそれ以外の何かなのか、達之自身にも分からなかった。
上手く頭が働かない。
いや、働かせないようにしているだけかもしれない。



