大海の一滴


「臓器を運んでいた青い作業服の男性は、藤川という名前であることです」

「え……」

 目の奥に、青い作業着姿の父が、先ほどよりも鮮明に浮かんだ。




 あれは、いつだ??






 辺りは薄暗く、夜明け前で、酷く寒かった。






『父さん、仕事頑張って』







 青い背中に、変声期中の掠れた声が呼び掛けている。
声の主は……昔の自分だ。

 驚き振り返った父の顔は、浅黒く、濁っていた。