大海の一滴


「母の説明は、こうです」

『あなたが入院していたあの海辺の病院はね、臓器売買をしてお金持ちや権力のある人の子供達を救っているところなの。臓器提供者は、孤児院や虐待にあっている子供達。児童相談所に勤める公務員がこっそり適合する臓器を見つけては、殺して運んでくるのよ。国ぐるみで行われているおぞましい行為。でも、私はそれを知りながら、あなたのお父さんに頼んであなたをそこへ入院させた。私は看護婦なのに。あなたが今生きているということは、どこかで可愛そうな子供が一人殺されたということなのよ』

「そんな……」

 思わずつぶやいた達之に、彼女も大きくうなずいた。


「私も、信じられませんでした。普通に考えて、この平和な日本で、そんなことが行われているとはどうしても思えなかった。母は精神的に非常に不安定でしたし、もしかしたら、夢の中の話なのではないかと思いました。でも……」

「??」


「藤川さん、私はその話と同じくらい、私が生き続けていることも信じられなかったんです。あの時、私が死の淵にいたことは確かでした。だから、自分なりに調査を始めました」

「調査……ですか? すごいな」


 彼女は微笑む。

「実は暇だったんです。私が高校へ通う辺りから、母の精神状態は顕著に悪くなり始めていて、それでも本人は病院には行かないと言い張るので、卒業後、母の状態が安定するまで、しばらくは、つきっきりで面倒を見ようと思い、大学進学を断念したんです。そうしたら、やることがなくなってしまって」

 暇つぶしにはちょうど良かったんです。と、彼女は言った。


「まず、私自身が患っていた病気を知ることから始めました」