由紀子が一人暮らしを始めたのは、高校を卒業してからだ。

進学した大学が実家から遠かったことと、大学の寮がすでにいっぱいだったため、大学の最寄の駅近くのアパートを借りた。

3階立ての2階に住んでいたのだが、1階では大家夫婦がパン屋を営んでいて、朝玄関を開ける度に香ばしいかおりがして、ついつい立ち寄ってしまう。

毎朝顔を見せる由紀子に、パン屋の主人は形の崩れたパンをサービスで袋に詰めてくれることもあった。


就職も、ここから2駅先の場所に決まったため、由紀子はアパートに引き続き住ませてもらうようにお願いした。大家は快諾してくれた。


もう、ここに住んで7年目になる。

由紀子は立ち上がり、窓を開けた。

生温い風が滑りこんでくる。

大通りの方からはまだ車の音が聞こえてくるが、そこから一本道を入れば、そこかしこに似たような学生アパートが立ち並んでいる。
街灯が、空々しく光を放っていた。