今度は恥ずかしそうに目を伏せた。
俺はさっきまで心の底で渦を巻いていた気持ちがどこかへ飛んでいくのを感じた。

「記憶が?! 戻ったのか?!」

興奮して思わず立ち上がってしまった。
まるで妻の妊娠が発見された夫みたいだよ、と由梨が噴き出しながら言った。

「はっきりとじゃないの。ぼうっとしてたら、ちらって記憶の影がね」
「お前を殺した犯人のこととかはどうだ? 家族のこととかは?」

俺はそう言って、ふとあることを思った。

由梨は死んでいるものの、存在はしている。
言葉を話すこともできるし、感情を表すこともできる。

「……なんか悔やんでることあるか?」

俺の突然の呟きに、驚いたように聞き返す由梨。

「だから、お前突然死んじまったんだろ? だから、やり切れてないこととか、大切な人とかに言いたいこととか、あるだろ?」

今ならちゃんと伝えることができる。
会うことだってできる。