両親を亡くして笑えなくなってしまった男の子に、笑顔になって欲しくて…。 "元気になって!"そう思いながら、私は歌った。


歌い終わると、男の子は優しく目を細めていた。


それは思わずドキッとしてしまうような、優しくて思わず見とれてしまうような笑顔だった。


「元気出たね!」

「お前、すごいな! 本当に元気になれた」

「歌は元気だけじゃなくて幸せもくれるんだよ」

「うん、そうだね! 今度は僕が君に元気をあげるよ!」

男の子はそう言うと、横に置いてあったサッカーボールを手に取った。

そのサッカーボールがきれいに手入れをされてあるのを見て、とても大切にしていることが分かった。


男の子はそのサッカーボールでたくさんの技を披露してくれた。


サッカーをしているときの男の子は、眩しいくらいにキラキラとしていた。


時間を忘れるほど私達は遊んでいた。


帰る時間の合図であるメロディーが町中に響く。

夢中になって遊んでいたせいか、そんな時間になっていることに全く気がつかなかった。


ううん。
きっと、わざと時間を知ろうとしなかったんだ。

この子の傍にずっといたかったから…。


このまま、時間が止まってしまえばいいのに…。


「またね」

「うん。またねっ!」


そんなことはできるはずもなく…諦めて私は帰ろうした。

でも、私はその場に立ち止まった。


男の子が私の手を握って引き留めたからだ。


私の手を握ったまま、男の子が話し始めた。


顔が少し赤い気がするけど……夕焼けのせいかなぁ?

「いい忘れてたけど、いつか"かしゅ"って言うのになれるかもねっ! 君には、人を笑顔にする力があると思う。 だって、さっきの歌聞いて、僕すっかりファンになっちゃった。 …じ、じゃあまたねっ!」


男の子は照れていたみたいで、それを隠すように後ろを向くと走って帰っていってしまった。


その時、男の子の首にかかっているペンダントに気がついた。

そのペンダントは、まるで夕焼けを閉じ込めたような赤色だった。


私は…夕焼けの赤に消えて行くまで、ずっと男の子の後ろ姿を見ていた。


あの子にまた会えたらいいな…。