帰りが遅くなったからだろう。誰もいないシャワー室にユニスはほっとした。
シャワーを浴びて身体を拭いていると、鎖骨のあたりに軽い痛みを感じた。
(何──?)
鏡に映る自分を見て、ユニスは変な感覚に捕らわれる。…こんな痣、あっただろうか?
すると、今度ははっきりと全身に激痛が走った。身体ごと叩きつけられるように。
「……っ」
鏡で見た痣の部分が焼けつくように痛み、ユニスはその場にうずくまった。
『──…すけて』
声?
弱くて聴こえない。
『たすけて』
──聴こえた。
「イレーネ…?」
ユニスは痛みが通り過ぎるのを待って、ユリエを呼ぶ。
「ユリエ」
眠っていたユリエはすぐに現れた。
「どうなさいました、マスター。──マスター!?」
「私ではありません。それよりイレーネが……」
──イレーネの悲鳴がこだまのように響いていた。
(同調連鎖だ)
感覚の強いユニスに、それは度々あることだった。
自分のものではない他者の心身の状態を感知して、一時的に同じ状態になったりしてしまうことである。
他者の心身が危うい時にそれをキャッチすることが多いのだが、それで自らも痛みを伴うのは避けられない。
だが、イレーネのことを案じていたユニスにとっては、イレーネの心身の状態がわかるというのは、その時に護りようがあるという意味でいいことだった。
「ユリエ、イレーネのところへ行ってください」
「マスター…。マスターが行かれた方がよろしいのでは?その方がイレーネ様は安心なさると思います」
「こんな時間に許婚者でもない者が訪れたら、疑われるのはイレーネです。これ以上精神的負担をかけたくはありません。精霊なら、よほどのことがない限り疑われません」
精霊は危機に瀕している者に、分け隔てなく憐れみ深いからである。


