十五の詩




「イレーネの心身に負担をかけてしまわないかという心配もあります。国が違ってしまえば、イレーネはそれまで生きてきたところと決別しなければならないでしょうし、リオピアの宮廷の者がイレーネを喜んで迎え入れるかといえば、必ずしもそうではないので」

 レナートが唸った。

「わー…好き嫌い以前にそんなことで苦労しなきゃなんないの?」

「だからそういう意味ではお前のような男を選んでつきあった方が、かえってイレーネは気が楽になるかもわからないということだ」

「あー…何かイレーネがマジで気の毒になってきた」

 ヴィンセントとユニスの話を聞いて、レナートが「今度イレーネ何処かに誘ってみようかな」と言い始めている。

「誘ってもいい?許婚者の方」

「傷つけないならな。あとスフィルウィング家の家の者に見られても上手くかわせるくらいでなければ誘うな」

「きびしー」

「これくらいの覚悟がなくて何が本気だ」

 ふたりの会話を聴きながら、ユニスはイレーネのことを考えていた。

(抱きしめておけば良かった)

 イレーネの不安げな瞳が思い出される。

 イレーネが安心できるまで言葉を交わして、少しでも長くそばにいてあげたかった。

 キスをした時に伝わってきた想いが、胸を苦しくさせた。

 本当に時を忘れて、ふたりだけでいられる時間が欲しい──。





 そういえばフォーヌの問題のこともあるのだ──ユニスは頭痛が始まりそうな予感に、かぶりを振った。

「すみません。シャワーを浴びてきます」

「はーい…」

 レナートはユニスに数学を聞こうと思っていたのだが、すっかりそのことは頭から飛んでしまっているようだった。

 ユニスがシャワー室に行ってしまってから、机の上を見て「あー数学聞くんだったー」とぼやく。

 ヴィンセントが見兼ねて「貸してみろ」と、レナートからノートを取り上げると、説明をしはじめた。



 ──答えの出ない問題を紛らわせるように。



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