十五の詩




 あたりが暗くならないうちにユニスはイレーネを家まで送ってくれた。

 まだ話していたいのに、とイレーネが素直な感情を言葉にすると、それはユニスも同じ気持ちでいるようだった。

 あまり遅くまで私と会っているのはあなたのために良くないので、と気遣いが先に立つあたりがユニスらしい。





(──どうしよう、私)





 騎士になるためにフェセーユに入ったはずなのに、そこで好きな人ができるなんて──。

 リオピアという国はどういうところだろう。スフィルウィング家の後継者はどうなるのだろう。それからヴィンセントの家は──。





「──イレーネお嬢様?ご夕食の用意が…」

 扉の向こうでアメリアの声がしたが、長椅子に身をあずけたままイレーネは起き上がれなかった。

「お嬢様?」

 キイ、とアメリアが扉を開ける。部屋の灯りもつけないまま暗がりの中にイレーネの姿が見えた。

「──お…お嬢様?お嬢様!」

 イレーネはうっすらと目を開けた。

「アメリア…」

「お嬢様、熱がございます。すぐに医務官をお呼びいたします」

「呼ばないで」

「ですが…」

 アメリアは言いかけて、言葉を途中で止めた。イレーネが泣いているのがわかったからだ。

「お嬢様…」

 アメリアはイレーネの前に座る。イレーネの手をとり「何かあったのですか?」と訊いた。

 イレーネはアメリアの心配げな表情に、ごめんね、と呟いた。

「…好きな人のことを考えてた」

「──」

 アメリアは何も言えなかった。イレーネがこういうことを言い出すのは初めてのことだった。

 許婚者を決める時にもあまり幸せそうではなかったことをアメリアは知っている。

 ヴィンセントとは仲がよくないわけではないだろうが、好きなわけではないだろう。──こんなふうに泣くほどには。

 そうすると泣いているというのは結論はひとつしかない。

 好きな人がヴィンセントではないということだ。



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