十五の詩




 夕暮れ。空が柔らかな茜色を帯びている。

 時計台を行き交う人はまばらで、誰も家路を急いでいるよう。

 ユニスとイレーネは噴水のそばに座った。

「──さっきまで、ユニスのことを考えてた」

 イレーネがぽつりとこぼした。

「ユニスの隣りを歩く女の子を見て、ああ、ユニスの隣りを歩くのは私ではありえないんだなと思って。でも…」

 どうして?とイレーネがユニスを見た。

 初めて見た時天使のようだと思ったその人は、今は現実味を帯びてイレーネのそばにいた。

 語る言葉も存在感も、生きている彼のものだ。醒めたら消えてしまう夢ではない。

 ユニスの優美な面差しは黄昏に映え、その横顔は遠く空を見ていた。

「初めからありえないと切りすててしまうことはないと思いました」

 そばにいるイレーネを見る。視線が交わった。

「あなたのそばにいたいと思ったからです」

(そばにいたい──)

 ユニスの言葉にまた心が揺れた。胸が高鳴るというのは、たぶんこういうことを言うのだろう。

(好きなのだ)

 ──ユニスのことが。





 イレーネはどう言えばいいのか、まるで言葉を無くしてしまっていた。

 好きという気持ちでいっぱいになると言葉にもならなくなるのはどうしてだろう。

 こんな気持ちでいっぱいになってしまったら、好きと言葉にしなくても、感覚の強いユニスには伝わってしまう──。





 ユニスの手がイレーネの頬にふれた。それに小さく首をすくめたが、ユニスが愛おしそうにこちらを見つめているので、その視線にとらえられてしまった。

 人にふれられているのが心地いいと感じたのは初めてのことだった。

 髪や頬をなでてゆく指先に心が溶けてゆく。

(このままでいると──)





 ……。

 唇がふれあっていた。

 自然に閉じてしまった目を開けると、ユニスがそれで何かから解けたようだった。