「何でもないよ」
『……』
ユニスはそれ以上どう話していいのかわからず、やがて口を開いた。
『今から会えますか?会って話しましょう』
「え?」
『あなたのことが気になるので』
ユニスの言葉はイレーネの心を大きく揺らした。
「気になるって…どうして?」
イレーネにはよくわからなかった。
ユニスは自分に許婚者がいることは知っている。そうではなくともユニスはいずれ一国を背負って行かなければならない立場にある人だ。
私に優しいのはユニス自身が優しいからで、自分が気にかけてもらえるような者だとは思えない──。
どれくらいの間があったのか、ユニスがそれに静かに答えた。
『私があなたを好きになってはいけませんか?』
「──」
ふらりと大きく目が回るような気がした。
『イレーネ?』
「──混乱してる。気が変になりそう」
『……』
「そうだね。会って話したい。何処に行けばいい?」
『──時計台に来られますか?』
「時計台?ユニス、この近くまで来ているの?」
『はい。スフィルウィング家の場所を知っておきたかったので』
時計台というのは、スフィルウィング家の敷地に入る前に通る場所だ。
イレーネはユニスの言っていることが、ただの優しさではないように思えてきた。
「待ってて。すぐに行く」
イレーネはアメリアに「すぐに戻る」とだけ伝えると家を飛び出した。
馬にも乗らず走った。
何も考えずに時計台までたどり着くと、そこには本当にユニスがいた。
「イレーネ?大丈夫ですか?」
まさかその距離を走ってくるとは思っていなかったのだろう。
急がせるつもりはなかったのですが、とユニスは申し訳なさそうに言った。
「ユニスがあんなこと言うからだよ」
「え?」
「好きになってはいけませんか?って」
ユニスは恥ずかしそうに笑った。それだけでイレーネには十分過ぎるくらいだった。


