待てという男たちの声にルナは一切耳を貸さなかった。
万が一の時のためにと母から譲り受けた薬は、恐ろしいほどよく効いた。
飛空魔法まで使えるようになっており、ルナは徐々に飛空魔法に身体を馴らしながらスピードを上げた。
ルナが迷わず目指したのは国境だった。
魔導士狩りは減っていると聞く。以前よりも落ち着いてはいるだろう。
リオピアに入れば少なくともフォーヌの軍人が好き勝手は出来ない。
こんな国に身体を売るくらいなら、リオピアで国籍を認められるまで働いた方がまだましだ。
──と、空に黒い点が見えた。
近づいてくるにつれ、それが飛龍だとわかった。
(龍なんて本当にいるんだわ)
初めて見る生き物にルナは先を進むのをやめ、近づいてくる飛龍を見つめた。
飛龍の背にはひとりの男が乗っていた。男もルナが見ていることに気づくと、すぐ近くまで来て話しかけてきた。
「何処に行く?こんなところで何をしている」
風に散らされる艶やかな黒髪と銀色の瞳、整った顔立ち。おそらくリオピアの人間だ。
ルナはほっとして男に答えた。
「リオピアに行きたいの」
「行ってどうする。お前はフォーヌの人間か?国境付近には近づかない方がいい。以前よりも落ち着いたとはいえ、ならず者もまだ多く横行している。見たところ魔導士狩りに手を染めている人間ではなさそうだが──」
「そんなもの興味ないわ。私はただ人間として生きたいだけ。何年か辛抱して働いてリオピアの国籍が取れるなら、それでいいの」
「──」
「あなたはリオピアの人間?」
「そうだ」
「確認したいことがあるの。この写真の人物は、ユニス様ご本人かしら?」
ルナは写真を見せた。男はそれを見て、目を瞠る。
「これを何処で?」
「私を薬づけにしようとしたバカが落としたものを拾ったの。ユニス様なのね?」
沈黙が返答だった。男はルナに尋ねた。
「リオピアに行ってあてはあるのか」


