(──獲物がいない)
昨日とは違うルートで山野を歩き回りルナはやりきれない気持ちになった。
幸い山菜は取れるがやはり動物の肉がないと厳しい。手に持つ弓はもう何日も獲物を射ていない。
「あの男が変な薬なんか使うからだわ」
野生の動物は敏感だ。これほどまでにさっぱり姿も見せなくなると、やはり生き物に害を及ぼすやばいものだったに違いない。
バカ兄貴、と憎々しげに呟いて、ルナは諦めて元来た道を戻ろうとした。
「──!!」
「よお、ルナ」
いつからつけて来ていたのか、そこには今しがたルナがバカ兄貴と吐き捨てた人物──エスター・シルフォーネが立っていた。
何がおかしいのかニヤニヤ笑っている。
ルナはにべもなく軽蔑した表情で言った。
「何してるの?暇なら稼ぎになるようなことでもしてきたら?」
「冷たいなぁ、お前。顔は可愛いのによ」
酔っ払いのようなデレデレとした喋り。完全にイってしまっている。
元々エスターはそれなりに出来た人物だった。だがいかんせん、フォーヌは国が貧しい。
魔導士の位までとったはいいものの、手っ取り早く金になるような仕事は魔導士狩りくらいしかなく、それで稼ぎを得たり、自分の魔力を薬に換えたりしているうちに、だんだん精神を病むようになり、今のエスターになっていったのである。
酔っているように見えるのは、酒を飲んでいるからではない。魔力や薬の使い過ぎによるものである。
「なぁ、ルナ。すごく金になる話があるんだけど」
「何?」
「お前だよ」
言うなり、エスターが詰め寄りルナの首に手をかけた。
「ぐ…っ」
ルナはエスターの横っ面に肘を喰らわせると、さらに足でエスターを蹴り飛ばし、その腕から逃れる。
普段から山野を駆け巡っているルナのそれをまともに喰らい、エスターは転がった。
呼吸を整えながら、ルナは心底落胆したように激昂した。
「最低だわ!あんたなんか男じゃない!」


