十五の詩




 塔に足を踏み入れて、ユニスはひとつめの牢も通り過ぎないうちに硬直する。

 鞭打たれた囚人が話しかけてくる。

「──なあ、助けてくれよ」

「……」

「マスター、見ないでください」

 ユリエがユニスに『見えない力』を行使する。

 『見えない力』はユニスが翻弄され過ぎないようにするための護力だ。

 傷ついている者を助けたい心と「打ってはならぬ者以外は助けてはならぬ」とユリウスに言われてきたことが、ユニスの中では葛藤になっていた。

「確かに余計なものは見ない方がユニスのためだわ。──ユニス、見えなくてもわかるわね?先刻の囚われ人と同じ思いを持っている者を探せばいいの」

「──はい」

 ユリエの力なのだろうか──見えなくなっただけではなく、罵倒する声や呻き声もふっと抑えられる感じがした。

 ユニスはドミナントの声を思い出す。

 ドミナントの声は──傷ついていても、優しい声だった。

 守るものを知っている、大切なものがある声だった。

 ユニスは知っている。

 耳に触れて聴こえてくるものだけが真実のものとは限らないと。

 ユニスは心の中で、ファスティーナから聴かされた古い歌を歌い始めた。



 我が名を呼べ 我が君

 我が名を 我が名を

 暗き世に 光をもて

 その御顔 向けられし時

 我が心は 君をたたえる



 ユニスはすべてをわかり、歌っているわけではなかった。

 ただ、ドミナントのような叫びを思い出した時、この歌をうたいたくなったのだ。

 ノールに手をひかれ、おとなしく歩くユニスが歌をうたっていることに気づいたのはファスティーナだった。

 ファスティーナはユニスの歌に合わせ、心の中で歌を重ねる。

 ユニスはそれに気づき、『罪なき捕らわれ人』を想うように歌った。

(声を発して。ドミナントと同じ叫びを。そうでなければ、私はあなたを探せない)