こうして息苦しい場所から逃げようとするのは今も昔も、そして幾つになろうが逃げるクセとして直らないようだ。



幼い頃には梨園の世界からひたすら逃げて、今度は偽の婚約者という立場から逃げようとしている。


ロボット男の“嘘は吐かない”という、弾みで生まれた言葉を信じた自分が悪いというのに。


それを勝手に真に受け、こうして被害者面で傷ついているのだからもはや滑稽だ。



まさにハレー彗星のごとく私の前に突如現れた、失礼冷徹男の感情など何も手に入る訳がない――



そもそもの始まりを考えれば、自身に求められていたモノが“完璧に立ち振る舞える婚約者”であった。


一般的には無縁な高級ブランドに身を包ませ、それが名の通る梨園の娘であれば箔がつく。


おこがましいと思うが、連れて歩くにも周りに咎められることがない名であることは確かで。


まさに形だけは認められる“盾”があれば、その陰でロボット男は本当に大切な女性と逢瀬を重ねられる算段だったのだろう。


ああ今ごろ合点がつくとは、何とも愚かな話だわ。
偽者に分け与えて貰えるものなど、目に見える煌びやかな物だけなのは明白だった。