あれから目立った会話も途絶えた空間では、カチャリ、カチャリと食器とカラトリーが擦れる音のみの不気味な静寂に包まれている。


そんな重苦しさすら感じる個室に身を置く私が出来るのは、ひたすら食べ物を入れては咀嚼を繰り返すだけ。


ナイフでメインディッシュのローマ風仔牛肉のソテーを切り分けては、ただ黙々と口に運んでいるが。


シンとした中で向かい合わせに食事する今は、まったく以って異質なものに思えてならない。



互いのプライベートを干渉する事はタブーなのに、この時間はいったい何なのよ…?



「…あの、」

「――何でしょう?」

それを払拭したくて。ひとまずナイフとフォークをお皿へ沈めると、相も変わらず冷淡な男の眼を捉えた。


「どうして、私だったんでしょう?」

「と、言うのは?」

唐突で言葉足らずな問い掛けだったにも拘らず、やはりロボット男の顔色はいっさい変わらない。


ならばと、お水の入ったグラスで喉を潤わせてから、再び真っ黒な瞳に目を向けた。


「私は確かに…アノ家の娘ですけど、それは貴方にとって何の得にもならない筈です。
そもそも借金を清算してまで婚約者に仕立てるほど、私に価値があるとは思えません。
専務ほどの方なら“相応の”相手が居ておかしくない。…違いますか?」


ただ“実家”を引き合いに出すだけで息苦しく思うとは、まだまだ私も成長しきれていないらしい。