彩人にぃとは比にならないほど、憎んで忌み嫌っていた父。果たしてその日、どんな眼差しを向けられるか怖いと感じる部分もある。


何よりも私の存在などとうの昔に抹消した、と終始無視される可能性も否めないけど。


どう転ぶのかは本人のみぞ知るだし、それで周囲に余計な患いをさせるより。兄と朱莉さんの門出の日を心から祝福したいと思う。


今までだって避けて逃げて来ても、心のもやもやは付いて回って来ていたのだから。



どうせなら胸を張っていた方が心もすっきり晴れるもの、と今はつよく感じる。…ううん、もう逃げるより強くなりたい。



どうしてネガティブな私が、著しいほどに心境の変化をみせたのか――そんな問い掛けはもはや愚問。




「――怜葉さん」

「あ…、専務」

「待たせましたか?」


「いいえ、ありがとうございます」


それは愛しさを教えてくれた人の姿を捉えるだけで、ほっと温かくなる心の変化に嬉しさを感じて。


愛しい人がふと見せてくれる、僅かな微笑によって笑える日々がとても幸せだと思えるからだろう。