その美麗な顔を見上げて様子を窺う表情は、またもや間抜けな顔をしているに違いないけど。



「まあ経営者として俺は、あまりに未熟です。何事においても経験不足が否めませんし…。

心で酷評しても結局は、父の機敏さとその鋭い才覚に学ぶところが多いのは事実です。

…それでも家へ帰れば、一切家庭を顧みないただの仕事人間のひどい父親という評価に変わりますね。
これは紛れもない…――怜葉さんにも以前ご覧頂いたとおりの姿がそうです。

その最たる話といえば…、婚約者を失って傷心する朱莉と俺の婚約話をでっち上げたことですから」


珍しく眉根を思いきり寄せて不快感を露わにしながら言うのは、間違いなく彼が嫌気をさしている証拠だと読み取れた。



「やっぱり…婚約、してたんですか」


ええ、当人たちの知らないところで徐々に堀を埋められていましたがね…。

あの人はたとえ息子であっても、自分の慢心のための駒にしか考えていませんから。

俺たちの婚約を仕立て上げることによって、朱莉の父が頭取を務める銀行を狙っていただけですが」

「う、そ…」


「だから、前から言ってるでしょう?俺は以前から、貴方に嘘は吐いてませんよ。

話を戻しますが…、表面上は2人の結婚によって、その銀行との関係がより親密になるという思惑が見て取れますよね?

もちろんそれは一理ありますが、…あくまで表向きの話――

実際のところは、叔父を上手く説き伏せたのち、…俺を銀行へ社外取締役の肩書きを得て入行させることが、すべての目的でした」


「ええ、と…なぜ、」

最中の思いがけない一言に、やはり嬉しくなったのが本音であっても。とてもそれに構えないシリアスすぎる発言で口籠ってしまう。