その朱莉さんの発言こそ、部外者の私と兄にとってさらなる理解に苦しむものである。



「――それなら!お茶を習っていたくせに、未だに私が正座が苦手ってことは知ってる?

ついでに、結構お喋りではあるけどむしろ人見知りなのよ!それに、着物を着るも面倒だし疲れるの!

ああもう!ぶっちゃければ、歌舞伎って何が良いのか分かんないわ!」

すると口を開いた途端、捲し立てるように話した彼女の剣幕には誰もが唖然とする。いや、美人ゆえにその迫力が恐ろしい。


対峙する兄と朱莉さんに目を向ければ、火の粉が飛んできそうで視線の向け先にも困る気がするほどだ。



「私はねっ…、古典も漢文も嫌いなの…、し、知ってるでしょっ!」

「…あ、朱莉、」


「それに…っ、それに…!
こ、子供が出来にくい身体って言ったら…、後継ぎが出来な…っ」

「…こ、子供?」

「っ、そ、うっ…」


宥めたことで落ち着きを見せた怒りが、大きく矛先の変わるものを示した時。いつしか零れていた、涙の理由が変わるきっかけとなった発言。



ぴくり眉根を寄せて呟く彩人兄と同じく、無言に徹していた私の目も丸くなる。


苦渋に満ちた顔で声を詰まらせた朱莉さんは、所在無げに床へと視線を落としてしまう。


小刻みに震えながら握り拳をグッと作っているほど思いつめている姿を目の当たりにし、外野である私たちはただ声を押し殺すのみ。