突然の登場によって、明らかに部屋の空気を悪くしていると気づいているであろうに。


それを一切悪びれもせず、まして悟くんに頭を撫でて貰っていた私のことをジロリひと睨みする。



お陰で眼を逸らせない男の真っ黒な瞳は、不機嫌であることが誰の目にも明白であった。


その理由はもちろん、抱えていた事実がバレたせいに違いない。



それよりも先ず、なぜこの辺鄙な場所…いや、別れたばかりの男がこんな所へ現れたのだろう?



何より驚かされたことといえば、凄味を掛けて来る男の他に、もうひとりまでその姿を見せたせい。


無遠慮にも無言のまま中へやって来た彼らは、こちらの困惑ぶりもどこ吹く風といった様相。


ゴクリと息を呑むより、さらにズキンと傷つくより早く。ツカツカと中へ進み、颯爽として距離を縮める人物の動向に目を逸らせない。



そしてピタリ、と立ち止まった先が標的と言わんばかりに。ジッと綺麗な顔立ちをそのままにして、無言で見下ろす迫力はまた凄まじいものだ。



「…朱莉、どうして」

突然の再会に驚いたのは、やはり私だけでなく。その名を呼べるほどに親しかった、兄の方が格段に上だろう。



「…私のこと…。何にも知らなかったのはソッチなのよ!」

「どういう、」

中途半端な問いに不快感を露わすかのように、大きな瞳はキッと目を細めて兄を睨んで言い放った。