綺麗な顔を歪ませるあたり、誰がどう見てもまだ彼女を好きなことが明白である。



――せめて幸せから一転した理由がどこにあるのか…、それだけでも兄が知れたらと思えてならない。



「…幸いと言って良いのか分からないけどね、」

「・・・え、」

何とも言えない後味の悪い空気の中で響いたのは、隣の席で口を閉ざしていた悟くんの滑らかな声であった。



「2人の家はどちらも高名だからね…、それなりに世間の目が向けられるのは致し方のないことなんだ。…怜葉ちゃんもよく分かってるよね?

だからこそ、マスコミに漏れていたのが真剣交際の報道のみで、婚約や結婚白紙の件が漏れなかったことは不幸中の幸いだった。

ただそれに躍起になっていたのは、マスコミやメディアから情報を得る一般人でもなく。立場を守らなければならない、と必死に足掻いていた彼らと周囲だった。

――つまりは周囲が2人へ求めるものが過多になりすぎて、肝心な本人たちの真の気持ちは蔑ろになっていたと思うよ。

もちろん、今さら気づいても遅い――すでに後の祭りであって、時を戻すのが叶う訳もないし。
何より彩人がもっと目を配って…、彼女の変化に気づくべきだったんだ。
まあ…どう言ってみても、所詮は結果論――これほど無意味なものはないからね…。

――キツイ言い方だけど俺は、彼女より周囲の醜聞に囚われて、彩人は本質を見失っていたと思うよ」


冒頭でサッと私から視線を外した彼は姿勢を正すと、真っ直ぐ標的を定めたかのように淡々と話した。


横顔からも伝わるその眼の冷たい色が、いつになく悟くんが真剣であると物語っている。


眉根を寄せてそれを受け止めた兄は、どこか悔しさを滲ませているものの反論はしなかった。



それによって悟くんの厳しい物言いが、すべて事実であって。別れた今もなお、兄はひどく後悔していることを表していると感じた。