お互いに大人であるからこそ、それは失恋による痛みであると今は痛いほどよく分かるから。


ここで労わりの言葉を掛ける方が、よほどウソっぽいと分かっているから押し黙ることを選んだ。



気まずさに躊躇う心中をとうに見透かされていたのか…、話を止めてこちらへ向き直った彩人兄は綺麗な顔を歪ませている。



「これでもね…、数ヶ月前から練りに練ってた、決死のプロポーズは大成功したんだぞ?

彼女から嬉しい答えを貰えたらすぐに挨拶を済ませて…、さあ今度はマスコミ発表だという時だったよ。

――その時になって朱莉から突然。結婚の話を白紙に戻して、私と別れて欲しいと言われたのは…」


「…えっ、ど、どうして、」

「さあ…、本当のところは分からない」


付き合っていたことで驚愕しながら話を聞いてゆけば、待っていたエンドは突然の破局だったという事実。



声に詰まった私はさておき。回顧して自嘲した兄の様子から察するに、どうやら一方的に別れを告げた彼女を深追いしなかったのは見て取れた。



結婚を考えるほど大切な女性を、兄とてそう易々と諦めた訳ではないだろうに。


どうしてなのかと、また腑に落ちない疑問だけが増えた。…ああ本当に何なのか分からない。


もとい驚愕の事実ばかりが往来する脳内は、処理能力を失ってオーバーヒート寸前である。



あれこれと残念な脳内で思案するものだから、それがまた顔に出ていたのだろう。


対角上に居る兄がそんな私に対して、まるで他人事のように小さく笑っているのを捉えた。



「まあ、ね…。それこそひと悶着あったのは事実だし、これでも諦め悪くても彼女に理由を質したよ。

それでも、彼女の別れる意思が固かったからね…。結局、あまり良い別れ方じゃなかったと思う、」


「…、」

その表情はとても想いに決着をつけたとは言い難く、何も言葉に出来るはずがなかった。