愛は幻だったと教えられた、少し前の彼ひとすじだった私に欠けていたモノは何だろう?


高階専務との婚約だって、本当に良かったのか今も分からないけど。もう後ろは向けないし、この状況から逃げたりしない。



とにかく今をただ必死に生きて、小さな幸せに喜んでいられる自分を貫きたいから――



「――あー…、眠い」

真夜中から部屋でひとりきり苦悶していようが、清々しい朝はそんな心を置き去りにしてやって来た。



ポツリ溜め息交じりに発したとおり、寝室の大きなベッドの居心地の悪さに慣れず、眠りもソコソコに寝室をあとにする。


いつの間にか業者によって運び込まれていた荷物は、私の手など加わらずにきちんと整理されているし。


以前の住処だったアパートの押し入れどころか、1Kの部屋と同等のクローゼットの広さに呆れるばかりだ。


この中に並べられた洋服のラインナップはじつに豊かなもので、あの男の指示と分かるから嫌になる。


以前というか昨日まで、新人OLがターゲットの某雑誌を参考に可愛めのコーデをしていたのだが。


クローゼットの中から適当にひとつ手にしてタグを見れば、今までとゼロのケタが違う有名ブランド名の表記に目が点になる。



「チッ、ハレー彗星…!」

今回もハレー彗星の方に失礼だと承知で吐き捨、舌打ちをしながらも仕方ないと高級服に手を伸ばした。