何より、“そうよね、彗星?”と尋ねられるほどの余裕が、私にあった平常心などとうに崩壊させていた。



「朱莉の奔放さに呆れてるだけだ」

「あら失礼ね!身勝手な彗星に言われたくないわ」

「思うがままに動いて何が悪い」

「…サイテーね、」


向かいでテンポの良い会話が繰り広げられ、その光景の苦しさから小刻みに手が震えてしまう。


カトラリーをどうにかお皿へ置き、震えの止まらない手をテーブルのクロスで隠していた。



“思うがままに動く”――それはどれほど彼女と私を傷つけているのか…、睨みつけたくてもただ俯く外ない。


彼の身体を受け入れた偽者に傷ついたと言う権利など、どこにもないから――



とても食事など出来ず目の前のメインディッシュをぼんやり眺めていれば、隣から大きな手がそっと包み込んでくれた。


それは今日私にとって、ピンチを救ってくれるヒーローに等しい悟くんのもの。


専務よりあたたかいその手が、まるで“この場から逃げないで”と告げていたから、失意の私は寸前のところで泣かずに居られたのだ。



それでももう無理だ…、朱莉さんに“ありがとう”と言われたあの時点で。


専務へ募らせて来た小さな想いは、この場限りで綺麗に清算しようと決意していた――