ここで“行きたくない”、と駄々を捏ねるのも情けないが。どう差し引きしても、惨めで辛いのが目に見えているからどうしようもない…。



「それなら送ってあげるから」

「・・・え?」

「約束は守った方が良いよ」

フッと笑い宥めてくれた彼は、“行くよ”と2つのトレーを片づけると手をサラっと握った。


ぽかんとする私はその力に導かれるように、真向かいにある高級フレンチのお店へ2人して徒歩で向かう。



彼の手の感触や大きさはまったく変われど、ふと懐かしさが込み上げていたのもまた事実であった…。



「ご来店誠にありがとうございます。 高階様、お待ち申しあげておりました」

ものの5分で到着したお店では、聞きたくもないその名字で恭しい歓迎をされていよいよ引き返す事が出来ない。


支配人と思しき男性が一瞬の困惑の色を見せ、私の手を握ったままの悟くんを捉えていた。


「ああ、これは失礼しました――私、こういった者です。

彼女の付き添いをすると高階氏には連絡済みですので、一席追加をお願いいたします」

「え、ああ、これはこれは…、大変お世話になっております。
かしこまりました、直ちにご準備いたしますので、どうぞこちらへ」


「…悟くん?」

「良いから、任せてくれる?」

彼の差し出した名刺を見て顔色の変った男性は、そそくさと私と悟くんを奥のVIPルームへ通してくれた。



ドアの向こうで捉えたのは予想通り――真っ黒な冷淡な瞳の男と、私の存在が邪魔でしかない女性の2人である。



「…なぜ怜葉さんと?」

「――たまにはね」

そう言って微笑んで締めてしまう悟くんに対し、悠然と構えるロボット男の冷たい声色はどこまでも対照的で。


朱莉さんと目を合わせるのも気まずい私は、この歪な状況下に早くも呑まれてしまいそうだ…。