ふわりと鼻腔を掠めるユニセックスな香りが、昨日の情事を蘇らせる。その気まずさを構う余裕もなく、ただ縋ってしまった。


どうにも纏まらない状況が辛くて抱きつきたいと思ったけど。あんなに激しく抱かれた昨日と違うのは、ごく僅かな理性が働いていたこと。



彼は朱莉さんのもの――その事実がシャツへと手を掛けさせ、それ以上の行動を抑制したのだ。



必死のそれを呆気なくスルーしている男といえば、ここでも下手な温情を掛けたいのだろうか。


まるで小さな子供をあやすように、私の身を支えながら大きな手で頭を撫でていた。


その手つきの優しさに錯覚を起こしたいほど、心は嬉しさによる温かさと後悔による冷たさに苛まれる。



「怜葉さん、どうしたんですか」

「それは…、こちらの」

「一瞬の間の理由を聞くのが先です」

「…、」

広々としたゴージャスなリビングに、淡々と響くロボット男の嫌味混じりな声音がやけに心地よい。


躊躇いなく追い詰めるのは毎度のことで、無言を貫こうとする私もまた同じである。



逃げる私と追い求める専務は、どこまで突き詰めても結局のところ交わりどころが見当たらない。


立場や性格のまるで違う私たちが相入れる部分は、まさに無きにしも非(あら)ずだ。