彼との日常に溢れていた“ありがとう”と“愛してる”のフレーズが、どれほど無意味なものであり。


幾らでも吐き出せるのだと悟るのはあまりに遅すぎて、そんな自身の鈍さを悔いるばかりであった。



但し、信用を置いていた人に裏切りを受けた時の仕打ちは心が打ち砕かれるものと知っているから。


奪われた貯金はおろか、背負ってしまった保証人の借金を考えて執心していた。


彼とのそれまでの日々を顧みるより、今後を考えている方が当時の私の中では楽に感じられたのだろう。



何の躊躇いなく歌舞伎町へと赴き、失敗に終わった今。専務であるロボット男と偽の婚約者契約を結んでいて。


どうしてか本命あるロボット男に惚れてしまい、この1年で平穏とはオサラバしている…。



裏を返せばノリユキという人は、良くも悪くも私の人生を変化させた存在であることだけは違いない――



あのあと電話を終えた由梨は彼からの電話に上機嫌で、どうにか悟られることはなかった。


平静を装っていた私は彼の姿を見失っていた。やっとの思いで遠ざかってもなお、その場所が気になって仕方なかったほど。


ちなみに私たちの目的地であった、お洒落な佇まいのバーはあいにく定休日で、再び2人で踵を返して駅へと向かったのだ。