柔らかなジャズの調べと周囲のムードをぶち壊す失態に、咄嗟に小さく頭を下げると肩を竦めてしまう。


開いた口が塞がらないとは、今の私の状態を差すのではないだろうか?間抜けな顔に映っていても、今はもう良しとさせて欲しい。



「…あのねえ、スパイシーなお小言と一緒に、ケバい目でかなり睨みつけて来ていたじゃない。

――ねえ怜葉、もしかして今日一日ずっと気づかなかったとか言わないよね?」

「…忙しかったの」


「よく言うわよ――急ぎの物だけ片づけて、あとは心あらずだったクセに。

ある意味、人の目を気にしないで済んだのは“大好きな彼”のお陰だったのね」

「…、」

“違うわよ!”と言いたいところだが、あいにく事情を知らない彼女の発言は、不思議と正解であったりするから否定しようがなく残念なもの。


複雑な心境からヘラヘラと自嘲笑いを浮かべていたところ、由梨の目の色が真剣なものに変化していた…。



「…私ね――前の彼氏と別れた時、凄くムリしているのが伝わって来て心配だったんだ。
ただ、他人が触れて良い部分とそうでない部分もあるし…、話してくれるまで待つつもりだったの。

でもね?専務と婚約してからの怜葉がどんどん綺麗になって幸せそうだから、今日は何だか安心した」


「由梨…、ごめんね」

「なに謝って来るのよー。でも良かったね、ザ・玉の輿!」

「…ふふっ、そっちなの?」

あまりに優しい気持ちが心に沁み渡って、グッと胸を打つものがあったけど。眉根を下げた私にジョークをお見舞いしてくれた彼女。


とても言えない専務との事実は隠し、心の中で幾度となく“ありがとう”を唱えていた。