しかしそれは同時に、恐怖の存在であるな兄と繋がってしまう接点であるというのに。


今の私はそれさえ感ずる余裕もなく、現在はただ彼の好意に感謝するばかりであった。



「ひ…くっ、うー…っ」

泣きすぎて何度もしゃくりを上げたり、目が痛く感じるほど涙腺を刺激している理由が自分でもよく分からない。



それでも留め金が外れた今は、泣かないと誓っていた僅かな意地も保てない。


だからこそ、撫でてくれる大きな手があたたかくて、その優しさに触れれば振り切れる訳がなかった。


無言のままひたすら泣き続け、面倒でしかない私を一切咎めたりもしないでくれる。


ましてそっと四つ折りの綺麗なハンカチを差し出された時は、本当に心の底から救われた気がした。


だからこそ優しさに素直に甘え、ぽろぽろ零れ落ちる涙を我慢せず、曇りがちな夜空の下でひとしきり泣くことにした。



「寒いでしょ?風邪引くから着てて」

「あ…、りがと、っ」

それから幾許かして、頬を乾かすように撫でる夜風が身に沁み始めた時。

ふわりと肩へかけてくれた彼のジャケットは大きくて、でもとても暖かかったから。


そのジャケットから鼻腔を掠めゆく男らしい香りに優しく包まれた私は、ゆらりゆらり揺れる身体の心地良さに負けて意識を手放していた…。