なすすべなく誘われたスポーツタイプゆえの近距離感は、やはり好きになれるものではない。


まして時おり漂う、ユニセックスなどこか優しい香りに反応する心が悔しさを増すから。


少しでもと、なるべく近づかないよう助手席の隅へと身体を寄せている時点で私の負けだ。



たとえあと少しでも、傍に居たいと思っているならば。なおさら“普通”であることが望まれるというのに、厄介なものだと小さく嘲笑するしかない…。




「いかがでしょうか?」

「ああ、」

“此処です、着きましたよ”と言う呼び掛けで訪れたお店は、オフィスから約30分ほどの距離にあるブティックだった。



ロボット男が路肩へ寄せるものだから、悪目立ちしかねない高級車を堂々と路上駐車する態度に呆れたのも束の間。


駆けつけた店員さんがすかさず車を移動するとはね――あ、なるほど、さすがのお得意様なようですね。


どうでも良いことに感心する私を知ってか知らずか、彼に連れられてブティックへと足を踏み入れた。



既に待ち構えていた男性と女性店員らに恭しく奥へ案内された私は、VIPルームへお通しされることが容易に想像出来た。


“高階様”と呼ばれる男は紛れもなく、ここの最上ランクに位置する上客だろう。


ちなみに私もよく知っているブランドなうえ、クローゼットに用意されていた洋服の中にもあったはず。


値段が高いのはもはや前提なのでスルーするとしても、デザイナーズ・ブランドはやはり目の保養になるし、その生地と着心地の良さは秀逸である。