指先をキュっと掴んだ、大きな手のせいかもしれない――この緩くあたたかい手を、一刻も早く離して欲しいわ。


ようやく肩から腕の力が解けたと思った瞬間、これは卑怯すぎる。


こうして握られてしまえばもう、私は自分で解くことが出来ないし。絡まってしまった指先だけが、やけに神経過敏で身体が熱く思えた。


この男の自由加減が、歴代の彼氏に感じて来た筈の想いをスッと忘れさせてしまう。


以前がどうだった、と比べたり、思い出す事さえ出来なくさせる。



この場の雰囲気と逆行する、悔しくも悩ましい感情に苛まれていた私。


対峙するボスと手を繋ぐ専務の顔を見られないと、自然と視線を下へ落とし2人を避けた。



「では、これで失礼するので、あとは宜しく頼みますね」


さらに指先の力が増した瞬間、あっけなくボスをあしらってしまう彼。

むしろ鮮やか過ぎて、こちらの方がボスへの挨拶が出来なかった。



そのまま連れられて来た道を戻って行く最中、ふと脳裏をよぎる、彼から以前に言われたフレーズには何の意味が無いとしても。


こうして離れないままの、独特な手のぬくもりを良い方へと解釈し、すべてを都合良く正当化したくなる――ああダメだ、本当に懲りないな。