聞こえなかったことに出来るほど、伊達に専務の名を持っていないのが彼だ。
寧ろそれがまかり通るほど、この空気は優しさが感じられない。



それほどに放たれたひと声の威力は甚大すぎたため、あれほどPC音や呟きに満ちていた周りも巻き込み、辺りは瞬時にシンと静まり返っていた。


背後からの鋭い視線にプラスし、チクチク注がれ始めた周囲の視線にとうとう屈した私。


舌打ちしたいのをどうにか抑え、無表情で振り返った先で悠然としたロボット男を捉えた。



小さくなりながら座っている私と腕を組みながら見下げている彼の態度では、明らかなほど上下関係を表しているが、はっきり言ってどうでも良いことだ。


あれおかしい、今日見たカレンダーでは大安だったはず。それがなぜこう対峙することになるのだろう。



こちらの気など知りもせず、3日間も声さえ聞かなかった男がなぜやって来た…?



「…い、かがしましたか、」


「ああ、所用がありましてね。怜葉さん、少々よろしいかと――良いですよね、勿論」


上手く愛想笑いが出来ていないと自身で分かっていたが、ヘラリ口元をいびつに緩ませて尋ねてみれば。



相変わらずソレすらスルーしやがった男は、やはりこちらの都合は総無視でやんわり圧力を掛けて来た。


ちなみに逆らうほど馬鹿ではないから、仕方なしに席を立てば居心地の悪い真っ黒な瞳が注視している。