もちろんこれは私たちに限ったことでなく、部署の人間すべてが仕事に翻弄されてランチタイムも取れずにいた。


そのため食べ損ねた食事を取ろうという話になり、男性の中で最も下っ端の加地くんが買い出し役として任命される。



「なぁ、トッキー…仲良く行かね?」

「残念だけど、ありがたく遠慮してココで頑張ってるから」

「奥さま、ひでぇ…」

「そうだね、うん」

心の中では僅かに、犠牲者に近い彼のことを不憫に思ってはいるけども。山積する書類がありすぎるため、とてもヘルプする気も起きないのだ。



私はおろか由梨にはもっと冷たくあしらわれた彼は、どこか哀愁を漂わせる背中を見せたものの、誰ひとりそれを見送ることがなかった。


それほどにバタバタで、誰もが目の前のPCや資料に釘づけだ。

まさにすべき事が多すぎるため、毎日が超特急かつエンドレスに感じるこの時期は致し方ない。


この他ゴトなど考えないで済む環境は大変とは思うけども、もっと夢中になりたくて。

よしと小さく気合を入れて、さらにPC画面に近づいていた私。


現在の微妙な心境の中では、この忙殺加減もありがたいものだ。居場所なきヤツのマンションで、あれこれ悩む時間は今は一番要らないから…。



「買って来ましたよー」

「おっ、サンキュ!」

「ありがとー」

どれくらい経ったのだろうか。暫くして戻って来た加地くんの呼び掛けに、続々と周囲がお礼を言い始めたことで、ハッと我に返って慌てて席を立つ。