何となく会話の途切れたまま、暫くして突き当たりに面する“万朶の間”へ到着した。


その部屋の襖に手を掛ければ、予め用意されていた席へとそれぞれ向かい合って座ることにする。



しかし正面から真っ黒な瞳に射ぬかれる事態には、いささか居心地の悪さを感じた。その鋭さを孕む虹彩に映されると、ひどく惨めな気分に陥るのだ。



「なぜ、」

「え?」

幾許かの沈黙ののち、薄く形の良い唇が言葉を紡ぎ出すものだから、思わずビクリと目を丸くしてしまった。



「なぜ俺を、専務だと紹介したのでしょう?」

「…専務は専務です」

続けられた一言は、小さな期待をしたくなる疑問符だったものの。
それこそ愚かな感情ではないかと、断ち切るようにへラリ笑って返してしまう。



「なるほど――まだ怜葉さんは、俺のことが信用出来ないと」

「何が…、言いたいんですか」


「賢い貴方なら、分かるでしょう」

俄かに眉根を寄せ、呆れたように僅かに口元を緩めるものだから、困惑する私が押し黙る材料としては打ってつけだ。



複雑すぎる心境の中で、彼の言いたい意味など分かる筈ない。まして自身の立場を考えれば、口に出して良し悪しの言葉もあるだろう。


艶々な木目調のテーブルを挟んでの対峙は、私だけが一方的に追い詰められて辛さばかりが増すから酷なものだ。